「せやからっ、うちは!」

恥ずかしいとか関係ない、この気持ちは誰にも抑えられない。

「小春が好きやねん!」




少年少女、儚き一生恋に走れ





小春とは、中学に入ってからの友達。
始めて喋った時は何て濃い人だろうって思った…だってすごくクネクネしてるし、ユウちゃんとは 変な噂が飛び交ってるし、おねぇ言葉使うし。

「小春、こないだうちが言いよったお店いつ行く?」
「せやなぁ…はいつがえぇの?」
「別にいつでもええ、帰宅部やから暇人やし」
「ほんなら暇人さん、今週末は忙しい人間になろか」
「大賛成!」

放課後の教室、二人きりの時間。
いつか近くのアクセサリーショップでお買い物をする計画を立てたり、先生たちの愚痴を話したり。
こっそり持ち込んだお菓子を食べながら、他愛の無い話をしてた。
これはいつものことで、だから互いの好きな人とかタイプの人とか。そういう流れに行くのは 珍しいことじゃない。

、どない人がタイプなん?」
「いややわぁ、そんなん聞かんといてよ!小春はユウちゃんやろ?」
「言わんでもわかっとるんやな。そや、ユウくんめっちゃかわええねん」

自分を抱きしめるように手を絡ませ、うねうねと動く小春ちゃんは傍から見れば変な人。
せやけど頭はめっさええしやさしいし、それにテニスも凄い。確かユウちゃんとはペア組んでた気がする。

「なぁ小春、うちはかわええ?」
「当たり前や!もかわええで!まぁユウくんには負けるけど」
「はぁ!?なして男に負けるんや…」

わざとらしく大きな溜息をついて机にうな垂れたりすると、「嘘嘘、あんたもかわええで」って 小春は頭を撫でながら言ってくれる。

「…小春優しすぎや、好きすぎてどうにかなってまう」
「アタシも好きよぉ」

未だにうな垂れたまま独り言のようにポツリと呟くと、笑いながら返事が返ってきた。
これ、友達の『好き』って取ってるんやないやろな。

「ほんまのことや」

むくりと頭をあげ、小春の眼をまっすぐ見つめる。
その瞳に映った自分は少しムスッとした表情をしとった。

「こらこら、女の子がそないな顔したら可愛くないで?」
「うー小春のあほー」
「あほちゃうわ!いきなり何言いよるん!?」
「冗談思とるやろ、うちの言葉」

だってそうやないと、普通慌てふためくもんじゃないん?
もっとこう、「ドキィ!」ってなるんやないん?

「おもてへんよ?せやからアタシも好き言うたやろ」

あきれたような表情の小春は気づいてない。実は現在進行形でうちの心臓がドキドキ言ってるのを。
天才の名が聞いてあきれるわ。

?」

悔しい、うちの気持ちが小春に届かんのが悲しい。
こんなに好きなのに…まぁ確かにそれらしい雰囲気を出さないうちが悪いのもあるけど。
ゆっくりと立ち上がり、仁王立ちしながら小春を上から見下ろした。いきなりのことに驚いているのか 小春は少し眼を見開いている。

「好き」
「え?」
「小春が笑っとる顔も拗ねとる顔も、ちょっと意地悪そうな顔も好き」
?」

あぁ、小春が困った顔しとる。やけどもうこの気持ちは止められんねん。
セール品に食いつくおばちゃんのごとく!特急列車のごとく!
この気持ちが止まるんは、すべてが終わってからや!

「テニスしとるときも、一緒に買い物行って荷物さりげなく持ってくれる優しいとこも」

ずっとずっと前から好き。
最初は友達やったのに時間が経つにつれてうちのなかで小春は『いい男』になった。
だけど小春にはユウちゃんおるし、うちのことは友達としか見てくれんって分かってる。
だから今日まで自分のこの気持ちを騙してきた。

「ちゅーかもう早い話、小春の全部が好きやねん!」
「あらまぁ」
「この気持ちはユウちゃんには負けへん、むしろボロ勝ちや」
「自信満々やなぁ」
「当たり前!……小春がユウちゃん好きなんはしっとる。せやけどっ、うちは!」

今まで騙してきたうちの気持ち、緊張でスカートを強く握り締めていたから手には血の気がない。
そのくせ手のひらが汗をかいて気持ち悪い。うぇ、じっとりしとる。
やけど言うで、後戻りとかせぇへんからな。

「小春が、好きです!」

全部吐き出して、言い終わって。
この後どうするべきかと冷静になったとき、誰かに抱きしめられた。
いや、誰かと言うよりも真正面に座っていた小春に強く抱きしめられていた。
机越しだから、少し体が斜め向き。

「あー…どうしてこない可愛いこと言うんかなぁ」
「こ、小春?」

好きな人に抱きしめられて、ドキドキしないわけがない。
じつは力強い腕に抱きしめられて、心の中で大絶叫。あかん!惚れてまう!ってもう惚れとるわ!
しかも自分の耳元で喋られるのだから、意識が飛んでく10秒前。

「折角人が我慢しとったのに、そない好き好き言われたら歯止めきかんくなるわ」
「……だって小春のこと好きなんやもん」
「アタシものこと好きやで」
「ほんまか?友達とはちゃうで、カッ…カレカノとしてや」
「そう言うとるやん」
「ユウちゃんよりもか?うちのほうが好きなん?」
「ユウくん…も好きやけど」
「浮気もん!!」

普通そこは嘘でもうちのほうが好き言うべきやろ!いや、嘘でもゆるさへんけど!
せやけど、

「こないかわええ彼女できたら、毎日いろいろ我慢せないかんな」

何度も好きって言いながらいろんなとこにキスしてくれたから、ゆるさなあかんやろな。



(2018/01/29)
× Close