里の中で一番高い家に上り、屋根の上で横になる。
悠々と流れる雲を眺めながら、時折吹く心地の良い風に目を閉じた。




タイムリミット





遠くから聞こえる鳥のさえずりをぼんやり聞きながら、人の笑い声に耳を傾ける。
するとどこからか軽やかな足音が聞こえたと思ったら、一瞬で俺の隣に誰かが降り立った。
目を開かなくてもそいつが誰なのかすぐ分かる。

「シカマルーっ!」

目を開き、声の主を見た。――
太陽に照らされて光る髪は美しく、夢うつつな目をした俺を捕える瞳は力強く逸らすことを許さない。
整った顔立ちは、里の中でも1位2位を争うくらいきれいだと俺は思う。
そしてそんなの手には、俺らがよく行く店の団子の袋が握られていた。

「鬼ごっこの最中に昼寝なんて、どういうこと!?」
「いいじゃねぇか別に、一人や二人くらいいなくても」
「いいわけあるかー!一人だけ別のことするなんて却下!」
「いや、つーかお前なんで団子買ってんだよ」
「……」
「……」

そう、確かに今日は適当に集まったメンバーで鬼ごっこをしていた。
最初は俺だってちゃんとやっていたが、途中から面倒になったので今に至るわけ。とりあえず、横になっていた体を起こす。

「と、糖分が途中で無くなって、その」

団子のことを指摘され、動きを止めていたが俺から目を逸らしながら呟く。あぁ、要は腹が減ったってことか。そういえばサスケやナルトも鬼だったから、とことん追い掛け回されたのだろう。微妙に引きつった笑みを浮かべているを見て、俺は小さく肩を揺らす。

「…なによシカマル、何が言いたいの?」

むっとしたように言う。 だけど俺は何か弁解するわけでもなく、ただ黙って空いている隣を叩いた。少し間をおいて、意味を理解したのであろうが隣に腰を下ろす。

「食うなら早く食ったほうがいいぜ、捕まるのも時間の問題だしな」
「さっきまで昼寝してた人間が言うのもどうかと思うけど」

袋から団子を取り出し、珍しくが正論を言う。勿論『珍しく』だなんてことを本人に言うと怒るのが目に見えるので言わないが。

「いっただっきまーっす!」

元気な声が聞こえ、視線だけを隣の奴に向ける。そこには青空のもと、時折吹く優しい風に髪を揺らし満面の笑みで団子をほおばるの姿。綺麗だ、と思ってもこれも口にすることは勿論ない。にしても、見てるこっちまで腹が減るような食いっぷりにだと感心するや否や、俺の心を読んだのかと聞きたくなるタイミングでが振り向き、にやりと笑う。

「食べたい?」
「んだよその顔は」
「食べたいんなら正直に言いなさい?」
「……」
「やっぱここの団子は美味しいってコラー!」

の手を掴み、驚く様子も気にすることなく持っていた団子を俺の口に入れた。程よい甘さが口に広がる。すぐさま怒声とともに掴んでいた手を振り払われ、ついでに拳が飛んできた。
ある程度予想はしていたので屋根を蹴り避けると、影真似の術での動きを止める。きれいに整えられた眉がつりあがり、少し涙を浮かべた瞳が俺を睨む。

「シカマルのバカ!私の団子返せ!」
「なんでだよ、別にいいじゃねぇか」

まだあるんだろう?と、が持っていた袋を見れば、まだこんもりと膨らんでいる。どれだけ買い込んできたんだよお前は。

「絶対に地の果てまで追いかけてやる…!」
は鬼役じゃねぇだろ、どうして逃げる人間が追いかけるんだよ」
「団子の恨み!」
「めんどくせー」

うっさいわ!と吠えるを一瞥した後、俺は術を解いた。

「!」
「んじゃ、お前が俺を捕まえられるか試してみるか?」
「ど、どうしたのよシカマル、急に…」

驚いたように目を見開く。俺はそんなの元に歩み寄ると、なでるように髪をくしゃくしゃにした。女らしくない、微妙な叫びが里中に響く。

「うぎゃー!なっ、なにすんのよ!!」
、お前鬼な」
「……へ?」

慌てて髪を直す姿を横目に、俺は隣の家の屋根へと飛び移る。

「鬼は10秒数えた後からしか動けねぇから、見失うんじゃねぇぞ?」
「は?え、どういう意味…」
「だから、お前鬼役で俺は逃げる役」

豆鉄砲を食らった鳩のように、間抜け面で俺を見るへしかたが無いので説明をする。鬼だった俺の代わりに、お前が鬼になる……それだけだ。ニヤリと笑う俺と反比例するようにやっと髪を整えたの表情は徐々に怒りへと代わり、最終的にはわなわなと肩が震えだしている。

「言っただろ?『捕まるのも時間の問題』だって」
「っー!!!」
「流石の俺でも、逃げる役....ならあんな場所で寝ねぇよ」

鬼ごっこの怖いところは、いつ、だれが鬼役になったのかわからないところだ。俺はの悲鳴に近い叫びを聞きながら、屋根から屋根へと飛び移る。

「(は死ぬ気で俺のことを追いかけるだろうな)」

そして必死に俺を捕まえる方法を考えるだろう。その間中は、あいつの頭には俺しかいない。
しかし、俺を捕まえてしまえばあいつはもう俺のことだけを考えてはくれない。

だから俺は……

「(そう簡単には捕まってやらねぇよ)」



(2018/01/29)
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