肌を刺すような冷たい風が吹雪く季節。寒さ対策をしても自然の力の前ではどうしようも無く、それでも毎年大袈裟なほど防寒対策をしてきた。そう、しっかり私は『寒さ対策』はしていた、のだ。

「凄い、冬でもツノがちゃんと生えてるってことは、トナカイの個性……つまり性別が反映されてる。じゃあ、春になれば落ちてしまう訳で……」

雄英高校に新しく作られた寮の、とある一室。正座で座る私の目の前では、何やら1人ブツブツ呟きながら、右手に持ったペンでノートに忙しく書き込む出久君の姿がある。因みに、かれこれ2時間以上はこの状況なので、そろそろ私の足は痺れの限界を超えそうである。

「一応先生からは、明日には消えるって言われたけど」
「そうなの!?つまり一時的に付与できる個性ということか」
「……トナカイのツノは、春に取れるの?」
「あ、そうなんだ!オスは秋で、メスは春に自然に取れるみたいだよ」

にこり、と笑って楽しそうに雑学を教えてくれる出久君の言葉に、何故そんなことまで知っているのだろうと、こてん、と首を傾げた私の頭には、巨大なソリを引くトナカイそのもののツノが生えている。決して生まれつきの物でもなければ、そういった趣味でもない。他クラスの生徒の個性が暴走してしまい、それに巻き込まれた結果出来てしまったのだ。流石に個性の『対策』はしていなかったので、バランスが大変取りにくく、しっかりと重みのあるこのツノは、正直邪魔である。思わずため息がこぼれた。

「はぁ……もっと可愛いのが良かった」
「可愛いの?」
「猫耳とか、うさぎの耳とか」

そもそも、私に今生えているのは耳ですらないが……それに、別の耳が代わりに生えたところで、このなんとも言えない虚しさと羞恥心が消える訳では無い。だが、やっぱり可愛いものの方が多少はマシだと、そっと1人ごちる。何が悲しくてクリスマスに、しかもトナカイのツノを生やさねばならないのだ。意味がわからないし、分かっても受け入れたくない。
しかし出久君は意外といった様子でキョトンとした顔をして、動かしていた手を止めた。

「僕は凄く可愛いと思うけどな」
「お世辞」
「ち、違うよ!本当に凄く可愛いと思う!」
「……ありがとう」

出久君の事だ、きっと純粋に褒めてくれているのだろうけれども、正直こんなにも嬉しくのない「可愛い」は初めてである。ツノの重さと折れた心につられ項垂れていると、不意にノートを床に置き、姿勢を正している出久君の仕草が目に入った。どうしたのかと顔を上げると、先程の楽しそうな表情とはうって変わり、頬を赤く染めて少し緊張した様子の面持ちでいた。

「どうしたの?」
「え、えっと、あの!」
「うん?」
「ツノがあってもなくても、君は変わらず……凄く可愛いと思います!」

真剣に言われた、予想もしていない真っ直ぐな言葉。瞬間、伝染したように私の顔もいつの間にか真っ赤になった出久君と同じように、朱に染る。
こんなに大きなツノ付けて、可愛い?重いし、肩凝るし、首も痛い上に、バランスを取るのも難しい。最悪である……そう思うのに、それ以上に「嬉しい」と思う自分がいて、なにより言われた言葉が嬉しくて、くすぐったくて、我慢できずはにかんでしまう。

「えへへ、ありがとう」
「うぐっ!!」

変な奇声をあげ、大きく目を見開いたかと思うと、耳どころか首まで赤く染め上げる出久君。どうしたのかと理由を問えば、「……笑った顔も凄く可愛い」だなんて、またもや予想だにしていなかった言葉を投げられて。
浮かれてしまった私は、その後『面白い個性』の記念として写真を撮ることを許可してしまい、一生物理的に消えない記憶として残ってしまった。

「(まぁ、写真見る度に可愛いって言ってくれるから別にいいけど)」

とりあえず、正直な彼の不意打ちの言葉に振り回されないよう、追加の対策を考えねば、と深く決意した、そんな忘れられないクリスマス。






クリスマス






(2025/01/09)
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